特別回 変化はどこから生まれるか ―支援の理論的背景―

このシリーズでは、ひきこもりとは何か、家族へのアプローチがなぜ大切なのか、見守りにも種類があるということなどを書いてきました。この特別回では、私たちの支援の背景にある考え方を、支援に関わる方々に向けて少し詳しくお伝えしたいと思います。

「うまくいかないことを続けない」

私たちのサポートの出発点にあるのは、短期療法のMRI(Mental Research Institute)アプローチです。その核心にある考え方は、シンプルです。「どんなに常識的なサポートであっても、状況が長い間変化しないのであれば、それは機能していない」ということです。

善意や常識は、サポートの有効性を保証しません。ただしこれは、当事者の意思を無視した強引なアプローチを肯定するものでも、家族の考えを否定するものでもありません。人権の尊重をはじめとするソーシャルワークの大原則に基づくことは、サポートの絶対的な前提です。その上で、変化が起きていないならアプローチを変える必要があります。「うまくいかないことを続けない」。これが私たちのサポートの基本姿勢です。

MRIアプローチが目指すこと

MRIアプローチが注目するのは、問題の原因ではなく、問題を維持しているメカニズムです。なぜひきこもりになったのかではなく、なぜひきこもりの状態が続いているのかに焦点を当てます。

多くの場合、問題を解決しようとしてとられているアプローチそのものが、問題を維持し、悪化させていることがあります。心配するあまり過度に関わりすぎる、逆に腫れ物に触るように避けてしまう、何度も同じアドバイスを繰り返す。善意から生まれたこれらの行動が、意図せず状況を固定化してしまっているケースは少なくありません。

MRIアプローチでは、こうした「解決しようとしてうまくいっていない試み」を特定し、そのパターンを変えることを目指します。大きな変化である必要はありません。小さなパターンの変化が、状況全体を動かすきっかけになることがあります。

強みと例外に注目する

同じ短期療法の流れにあるSFA(解決志向アプローチ)も、私たちのサポートの重要な柱です。MRIが「うまくいっていないことを変える」という視点であるとすれば、SFAは「うまくいっていることを見つけ、拡大する」という視点です。

ひきこもりの状態が続いていても、当事者の中には必ず「例外」があります。いつもより少し話せた日、部屋から出てきた瞬間、何かに興味を示した場面。そういった小さな例外を見つけ、そこにある当事者の強みに注目します。次に、家族との相互作用の中にある例外を探します。いつもより穏やかに話せたやりとり、当事者が少し心を開いた瞬間。そういった例外を家族と一緒に見つけ、意味づけ、拡大していくことが、状況を動かすきっかけになります。

物語ではなく、相互作用に注目する

ひきこもりの状態が長く続くと、家族や当事者はその状況に意味を見出すために、さまざまな物語を話します。「この子はこういう性格だから」「あのときのあの出来事が原因だ」「自分たちの育て方が悪かった」。そういった物語です。

私たちはその物語を否定しません。物語そのものを変えることをサポートの主目的にもしません。注目するのは、その物語の背景にある「相互作用」です。当事者と家族の間で何が起きているか、環境との間にどんな作用が生まれているか。その相互作用を変えることが、サポートの中心にあります。

また、家族や当事者が現実をどう認識しているかということも、相互作用に影響を与える一つの要因として捉えます。認識そのものを正そうとするのではなく、それもまた環境や相互作用に影響を与えるものとして丁寧に扱います。

変化には二つの方向がある

ここでナラティブアプローチの考え方が力を発揮します。

一つは、相互作用を変えることで認識が変わっていく方向です。家族のコミュニケーションが変わり、当事者を取り巻く環境が変わることで、当事者や家族の現実認識そのものが少しずつ変わっていく。

もう一つは、認識が変わることで相互作用が変わっていく方向です。ナラティブアプローチを通じて、当事者や家族がこれまでの物語とは異なる、新たな物語を見つけていくことで、関わり方や行動が変わり、結果として環境そのものが変わっていく。

この二つは対立するものではありません。どちらも有効な入口であり、状況によって使い分けることもあれば、同時並行で起きることもあります。

リフレクティングが開く新しい視点

家族面談においてリフレクティングは、認知へのアプローチとして重要な役割を果たします。

当事者が親に直接伝えようとしても、なかなか届かないことがあります。親子の間には長年の関係性があり、どうしても感情的になったり、防衛的になったりしてしまうからです。そういうとき、リフレクティングを通じて第三者からの視点として伝えることで、同じ内容がよりわかりやすく、共感的に、臨場感を持って届くことがあります。

重要なのは、認知がどの方向に変わるかをあらかじめ定めないということです。リフレクティングを通じて「以前と変わる」こと自体に意味があります。変化の方向は、当事者や家族の中から自然に生まれてくるものです。

言葉と行動のズレに介入する

家族へのアプローチにおいて、私たちが注目するのは言葉だけではありません。親が当事者に伝えるメッセージは、言葉と行動や態度を通じた二つの層で伝わっています。「あなたの気持ちを大事にしてね」と言いながら、心の奥底では「でも学校には行ってほしい」という思いが流れている。これを心理学では「ダブルバインド」と呼びます。

当事者は親の言葉だけではなく、行動や態度を通じても、その奥にあるメッセージを敏感に読み取ります。親自身がこの矛盾に気づいていないことがほとんどであるため、私たちは家族との対話の中で、こうした無意識のメッセージに丁寧に向き合っていきます。

答えの出ない状況に耐える力

サポートの現場では、答えがすぐに出ないことが多くあります。いつ動き出すのか、このままでいいのか。そういった問いを抱えながら関わり続けることが求められます。

この文脈で私たちが大切にしているのが、「ネガティブ・ケイパビリティ」という考え方です。「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」を意味します。サポートに関わる人たちは責任感が強く、誠実な人が多いです。だからこそ、目に見える効果が出ないとき自分を追い詰めてしまうことがあります。

そういうときに大切なのが、三つの「薬」という考え方です。「口薬」=安心できる声がけ、「目薬」=見守っているという態度、「日薬」=そんな日々が積み重なることでゆっくりと回復していく。答えを急がず、つながり続けることそのものが、サポートの力になります。

支援の倫理的前提として

アウトリーチ(訪問)についても、私たちは慎重な立場をとっています。本人の了解を得ないまま訪問することは、当事者の唯一の安全地帯である自宅を脅かし、家族への信頼を失わせ、支援者との信頼関係の構築機会を永遠に奪いかねません。どのようなアプローチも、当事者の意思と合意を出発点にすることが、私たちの倫理的前提です。

当事者への眼差し

私たちは、ひきこもっている状態を「実存の問い」と誠実に向き合っている状態として捉えることがあります。「私とは何者なのか」「自分が生きている意味とは何か」。そういった問いを抱えながら、答えが出ないまま、でも手放せずにいる。それは人類が長い歴史の中で向き合い続けてきた問いです。

また「生きているだけで十分とは思えない」という感覚も、個人の弱さではなく、社会が持つ「生産性」という価値観が内面化された結果として捉えます。その価値観に気づくこと自体が大切であり、同時にその価値観から簡単に逃れられないことも理解しています。

複数のアプローチを統合する

私たちが短期療法(MRI・SFA)・家族療法・ナラティブ・リフレクティングを組み合わせているのは、それぞれを別々のツールとして使い分けているからではありません。「変化はどこから生まれるか」という問いに対して、複数の入口を持っておくためです。

変化が起きていないなら、入口を変える。相互作用から入ることもあれば、物語から入ることもある。強みや例外から入ることもあれば、リフレクティングを通じて新しい視点を開くこともある。

また、状況によってはCBT(認知行動療法)やメンタリングを用いて、個人(当事者・家族)の内面からの変化を目指すこともあります。

コブルのサポートは、こうした複数のアプローチを組み合わせながら、四つの層に働きかけることを目指しています。一つ目は、個人(当事者・家族)の内面へのアプローチ。二つ目は、家族間の相互作用へのアプローチ。三つ目は、地域と連携した環境へのアプローチ。四つ目は、各種制度の利用といったソーシャルサポートです。

当事者一人ひとりの状況は異なります。どの層から入るか、どのアプローチを使うかは、その人とその家族の状況によって変わります。その柔軟さが、届きにくい人たちへのサポートを可能にすると考えています。

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